「失われた大隊を救出せよ~米国日系人部隊 英雄たちの真実」を知ってほしい
皆さんは「アメリカ陸軍第442歩兵連隊」についてご存知ですか?
それは日本にルーツを持ちながらアメリカのために戦った若者たちのことです。
第二次世界大戦中、ドイツ軍に包囲された絶体絶命の白人部隊「テキサス大隊」を救出すべき集められたこの日系人による大隊は、他の部隊が救出にことごとく失敗する中、"Go For Broke"当たって砕けろの精神で見事救出に成功し、後に「英雄」と呼ばれた存在です。
では、次に皆さんはこの「442連隊」についてどうお考えになりますか?
今では「英雄」と呼ばれ称賛される彼らを、日本にルーツを持つ彼らを、誇りに思うような意見をまとめた情報もネットではたくさん見られます。
しかし実際はそんな美談だけで終わるような歴史だったのでしょうか?
実際、志願兵の多くは戦時中に日系人として生きる居場所がない自分をアメリカに認めてもらうために入隊した人たちでした。
当時日系人は日系人収容所に入れられ監獄のような生活を強いられていました。そこで命を落としたものも数知れず…。アメリカで忠誠心を見せるためにはまさに"入隊するしか立場がない"状況だったのです。
その歴史の中にある闇の部分から真実について改めて考えたとき、今わたしたちが伝えていかなければならないものは何なのかが見えてくる気がします。
そこで2017年3月19日にNHKBS1で放送された「失われた大隊を救出せよ~米国日系人部隊"英雄"たちの真実」より元442連隊兵士たちの証言と関連資料をまとめたものをご紹介したいと思います。
第二次世界大戦における日系二世将兵を称えた議会名誉黄金勲章(表)Wikipediaより
歴史に残したい元兵士たちの証言
人種に関係なく全ての忠誠なアメリカ人には軍への入隊の道を開く…そんな国の言葉のもと442連隊に志願した元兵士ローソン・サカイ(93)さんの証言から
「憲法は平等の権利を保障していますが、日系人にそんなものはなかった。しかしどうすれば良いのか若い私には分からなかった。でもアメリカのために戦えば状況は変えられると考えたのです。」
~しかしサカイさんは、戦地でかつてない恐怖にさらされることになりました。
「そこら中でうめき声が聞こえました。声を出さない者は死んでいました。人間のうめき声、砲撃の音、まさに悲惨でした。」
~その中でもサカイさんにとって一生忘れられない経験がありました。
「ドイツ兵が突然撃ってきた。俺はもう死んだと思った。だが敵の弾は外れた。顔を見ると15歳ぐらいの少年だった。まだ子どもだったのです。相手はこちらを殺す気でいる。だからこっちが先に相手を殺すしかない。それが延々と続くのです。生き延びるには仕方がなかった。」
~ドイツ軍は戦争のために老人や子どもまで戦地に送り出していました。この直後サカイさんは重症を負い、戦線から離脱しましたが長い間PTSDに苦しみました。
好きで志願したわけでなく、生きるために戦地へ赴いた。しかしそこでもまた、好きで無謀な戦い方をしたわけでなく生きるためにはそうするしかなかった。何が起きているかなんてわからない。考えることすらできない。そんな状況だったのではないでしょうか。
元上等兵 タケオ・イケダ(95)さんによる"戦いの決め手となった出来事について"
「※バンザイ突撃を仕掛けたんです。"もし"とか"なんで"など考えずに黙って突撃するのです。説明するのは難しい。なぜそんなことをしたのか。何をしたのか。狂ってますよ。」
昼でも暗い森の中、敵はどこに潜んでいるのかわかりません。どんな状況であろうと「進め」という選択肢しかない中、自らの命を前に差し出しても戦うしかないのです。狂っているのは彼らではなく、指導者の方ではありませんか?
※バンザイと声を上げて突撃を実行すること。海外で一般的に言われた自殺行為を意味する「バンザイ突撃」とは別物。
戦争情報局長官がルーズベルト大統領に宛てた文書
一方、アメリカの日系人部隊に関する資料では「日本の反米宣伝に対抗するための逆プロパガンダが必要」だと報告されていました。
当時、日本はアメリカを人種差別国家だと批難していました。都合が悪いアメリカはこれに対し、白人指揮官のもと日系人部隊を編制するという提案をすることでアメリカが自由で開かれた国だと世界にアピールをしたのです。
「日系人がアメリカのために戦いたいと志願したという事実があれば日本のプロパガンダを弱める効果があります。より効果を上げるためには徴兵制より志願制を薦めたいと思います。」
「黄色人種が白人のために戦う。この事実は絶大な力を発揮するでしょう。」
日系人収容所 ここから多くの志願兵が出た Wikipediaより
歴史研究科 スコット・マクゴーさんの見解
「ルーズベルト大統領は日系人差別の問題をすり替える方法を見つけたのです。それは軍事プロパガンダとして政治的に利用することでした。442連隊の忠誠心や献身的な姿勢は政府にまんまと利用されてしまったのです。」
皆さんはこれらについて、どう思われますか?私には言葉がありません…。
続いて戦地からのリアルな声を話してくださった元兵士たちの証言になります。
元軍曹 ジュンオ・ヤマシタ(92)さん
「私は戦争で聞いた声が忘れられません。"オカアサン"と叫ぶ声です。高校を卒業したはかりの若い大きな男でした。"オカアサン"と言った男は自分が死ぬことを知っていたのでしょう。助けを求める最後の叫びでした。私はあの声と共に生きてきました。永遠に忘れることはできません。」
従軍牧師 ヒロ・ヒグチさんの手紙
「果たして今回の戦争は意味があったのだろうか。一歩進むごとに泥と雪と地獄を垣間見る。我々の勝利は血にまみれていることを知ってほしい。おびただしい命が失われた戦争は戦後よりよい世界を築かない限り意味がなくなってしまう。」
ビグチさんの最後の言葉は残念ながら叶いそうにないのが世界の現状です。それはやはり歴史に現場の声が届いていないこと、戦争から離れた人間が平和である今を当たり前に思い、過去を学ぶ意識がないことが大きいと思います。"歴史は繰り返す"を言い訳に変われない世の中を、戦争で命を落とした方々は一体どんな気持ちで見ているのでしょうか。
また、ビグチさんは次のようなことも手紙に綴っています。
「民族に関係なく人間性のみが大切にされる世界を私たちが作っていかなければならないと思う。」
日系人は大変な差別の中で生き抜き、苦労された方たちだと思います。彼らの血の滲むような努力と現地の方々に見せた"信頼"は今の日本人が国際舞台で様々な人種と交流する上での基礎になってくれたといっても間違いではないと思います。
最後に、私が今回このテーマをブログに書こうと思ったきっかけでもある"最も心に残った訴え"を載せておわりにします。
元上等兵 ローソン・サカイ(93)の証言
「戦友が帰国して家に戻ると近所の人に発泡されたんだ。信じられますか。それほど人種差別が酷かったんだ。何年も続いたよ。」
ハワイ現代史研究家 トム・コフマンさん
「日系人には多くの失望がありました。家や土地を買うときに差別を受け、資格はあるのに雇ってもらえなかったのです。"日系人は戦場での戦いには勝ったが、いまだ本国では勝利していない" "この戦いに勝利するのは真の民主主義を実現したときだ"と考えました。」
去年12月ハワイで記念式典が行われ、元442連隊の兵士30名が集まりました。今ではすっかり日系人兵士たちはアメリカの英雄だと称賛される一方、戦後もずっと戦争と人間の在り方について問いつづけている兵士もいます。
あのバンザイ突撃に参加者したタカオ・イケダ(95)さんは式典には参加しませんでした。
イケダさんは高齢になると悪夢を見るようになったそうです。今まで戦争のことは家族にも語らなかったほどその傷は大きかったイケダさん。今回日本からの番組の取材だと聞くと重い口を涙ながらに開いてくださいました。貴重な証言をご覧ください。
英雄なんて呼んでほしくない
「戦闘のことを思い出すと、とても悲しい。敵というのは友だちの友だちなんだ。友だちの友だちと戦ったんだ。戦争は本当によくない。イカれてる。」
(後悔は?)
「ない。俺が戦ったのは…(声を震わせながら)俺はアメリカのために戦ったんだ。あの時の記憶が戻ってくるんだ。それでも俺はアメリカのために戦ったんだ。」
(皆はあなたを"英雄"だと言いますが)
「誰にも"英雄"なんて呼んでほしくない。そんな呼び名は嫌いだ。」
感想
日系人の皆さんはアメリカ人としてアメリカのために尽くしたことは間違いではないでしょう。
一生懸命アメリカ人になろうと努力したのです。
私には彼らが、姿は日本人だとしても完全にアメリカ人にしか思えない。そう思いました。
確かに移民、そして異民の存在は日本国内でも難しい問題です。文化の違うもの、価値観が違うものが共に生きることは理解を得るには時間がかかります。きれい事をなしに言えば、自国を侵略される気持ちになるかもしれないし、汚染されるかもしれない、そんな不安を持つ人だって多いと思います。
こればかりはどこの国にもある意識で、ただ「差別」といい取り払えば良い問題でもないところが深刻なところであります。
そんな中で日系人の方々は本当に頑張ってこられたのではないでしょうか。アメリカの中に染まろうと必死に走り続けてこられたことだと思います。
そして、最後のイケダさんの話を聞き、戦争を経験された方は戦争をなにか知っているからこそ互いを尊敬し、認め合うのだと感じました。
だからこそ経験者の言葉は重要になってくるし、もう式典に集まれた兵士の数が30名しかいないと思うと、こうした証言は貴重なものであると同時に歴史の真実を伝える人がいなくなる危機感を覚えます。
私は単にこの出来事が英雄として捉えられるのではなく、こういったリアルな声こそが歴史上で伝えられていってほしいし、大切にしていかなければならないのではないかと強く思いました。
また、歴史が捏造されたり、過去の出来事を今の人間が勝手に解釈しないためにも「証言」は何より信頼にあたる貴重な資料だと番組見て、改めて思いました。これからの未来のためにも歴史が正しく受け継がれ、学んでいけることを望みます。