【朝比奈あすか】君たちは今が世界(すべて)がオススメ!
表紙がカワイイです
子供が「読みたい!」と言っていた朝比奈あすかさんの”君たちは今が世界”
図書館がようやく開館したので借りてきました。
開成中の入試問題にも出たんだとか・・
以下ネタバレを含む感想になります。
調理自習中の洗剤混入事件
舞台は学級崩壊中の6年3組。ある日、一部の人間が計画したトンデモない事件がクラス全体を大きく揺るがすことになります。それは調理実習中の洗剤混入事件。大事になっても反省の色すら見せず、逃げ道ばかり探す生徒たち。怒った担任は、自ら名乗り出ようとしない犯人たちに残酷な言葉を放ち、教室を去ってしまいます。
「皆さんは、どうせ、たいした大人にはなれない」
救われない言葉。人によってはショックだったり、自分には関係ないと思える言葉かもしれません。けれど子供たちはこの事件とこの言葉をベースに、残り1年間不安定な時間を過ごし葛藤していきます。
根っこには格差が見える
まずこれは、学級崩壊を経験していない人にしか分からない描写がたくさんある本だ!と思いました。それくらい生徒ひとりひとりの心情がリアルです。
いじられ役、優等生、問題児、クラスの女王とその取り巻き、おそらく全国どこのクラスにもいるクラスメイトたちを集めた構成。1章ずつで主人公が変わり、それぞれがなぜ教室内でそういうキャラを演じているのかが書かれています。
学校では同じ仲良しグループに属していても、それは今だけの関係。卒業が近づけば早くも私立組、公立組に進路が分かれる。ずっと同じだと思っていたのに、学力も家柄も全然違う者同士の集合体だった事実。クラスメイトそれぞれの『家庭の事情』という不平等さが見えて来る高学年。そして他人と比較した自分の姿に悩みだす12歳。あぁ、これぞ小学6年生。
物語の背景には格差が見え隠れするのも深いテーマです。
あまりにも現代的
習い事がダンスだったり、裏LINEグループでの悪口大会だったり、さりげなく出てくる描写までもが現代的で惹きこまれます。何より子供たちから見た教師の姿がリアルだと思いましたね。大人しい生徒を使って公開処刑をする男性教諭、教室内で権力のある生徒には腫れもの扱いな女性教諭。発達障害の生徒を一方的に”悪い子”と決めつける若手教諭。
我が子を棚に上げたモンスターママや通塾組の学校と塾でのキャラの使い分けなんかも「あるある」です。スクールカーストだけでなく、現代の子供たちが感じていることが詰まった作品なので、多くの人に共感される理由が分かります。
社会の縮図
公立小学校は社会の縮図。色んな子と同じ箱で過ごす最初で最後の貴重な場です。実は何も考えていないようで、大人には届かない悲鳴を上げている子供。大人のすべてを攻略できているつもりが、大人がつくってくれた安全な場所から叫んでいるだけの子供。私たちも過去には子供でした。大人になるに連れて忘れてしまった気持ち、多くありませんか?ぜひ、この本を手に取って現代版の”過去の自分”を思い出してみてください。
エピローグは秀逸です。君たちは今が世界。かつて教室の中がこの世のすべてだった彼らの未来はどうなったのか。未来から過去はどう映ったのか。
「皆さんは、どうせ、たいした大人にはならない」
それでも精一杯だった子供たち。大人の責任を感じた一冊でした。
おわり
振り返れば、私の6年2組も学級崩壊を起こしていました。当時の感覚としては主犯格が起こしている他人事でしたね。そして子ども心に授業が潰れていく様が面白いとすら感じていました。私は塾行ってるからどうでもいいし、くらい。今思うとセンセー泣かせで恐ろしいことをしていたんだな、と反省です。
そんな崩壊組も進級すると、あっという間に中学生の色に染まっていきました。この本の子たちも同じなんだと思います。あの最後の悪あがきな1年は、彼らの人生で最初で最後の嘆きだったんでしょうね。そう思うと少し胸が痛いです。帯にもある「みんなと、居たい。みんなは、痛い。」泣けちゃいますね。
この先はかつてのように心の闇を表現したくても許されない大人のステージです。自分で乗り越えていくしかありません。適切な時期に大人に守ってもらう事の大切さ。愛される事の大切さ。それをしてもらっていた子とそうでない子で生きやすさに開きがでてくるでしょう。
もし今の12歳がこの本を読んでいたら「立ち止まらないで」とだけ伝えたいです。今ならまだ大丈夫、やり直せるから、と。
皆さんならどんな言葉をかけますか?
大人も子供も両方考えさせられる本なので、親子読書としてオススメです。
以上、気持ちが小学生にタイムスリップしてしまうお話でした。