五輪を逃した者の今【樋口新葉】
チャレンジカップ2018
2018年2月22日からオランダ・ハーグにて開幕されたチャレンジカップ。
この大会には日本から五輪代表選考会で涙を流した樋口新葉・本田真凜・本郷理華選手が出場しました。
世間が五輪ムードで賑わう中、ひっそりと行われたこの大会。
選手たちは、それぞれ、一体どのような心境で、このリンクに立ったのでしょうか。
今回は、その中でも、最も五輪代表に近いと言われながら、惜しくも平昌への切符を逃してしまった樋口新葉選手の現在に迫りたいと思います。
007が見れないストレス
全日本後、樋口選手のスケートを観る機会がなく、恋しい想いをしていたファンはとても多かったことでしょう。特に、フリーのプログラム「映画007より スカイフォール」を見れないストレスは、私の中で一種の禁断症状に近かったといっても過言ではありません。いや、私の知る限りでも、五輪で男子シングルのチャ・ジュンファン選手がジプシーダンスを滑っているのを観て、「樋口選手のショートを思い出した!」「新葉の演技がみたくなった!」という声がそこら中で呟かれていた様子からも、この気持ちは私だけではなかったのだと思います。
それだけ愛された樋口新葉と、ふたつの名プログラム。
しばらくの間、樋口選手の動きが分からぬまま迎えた、このチャレンジカップ。
もちろん、観客もいつものように大勢は入らない小さな大会。
悔しさと悲しさを抱えた中、仲間たちが夢の舞台で活躍している中、樋口選手は、どのようなモチベーションで、ふたつの”五輪用”プログラムを演じたのでしょうか。
やはり輝いていた
結論から言います。ショート・フリー合わせて観ても、やはりこのふたつのプログラムは輝いていました。”まさしく五輪用プログラムだった”これにつきます。あまりプログラムを絶賛すると、「ただ、プログラムが良いだけなのでは?」と、言われそうなので、きちんと付け加えさせていただきますと、こういうプログラムを与えられる能力と、それを滑りこなせる能力が凄いと言うことです。日本人選手の中でも、16~17歳の中でも、ここまで年相応の大人っぽい演技が堂々と出来るというのは、樋口選手だけの強みです。決して背伸びをしたわけでもなく、幼さを残したわけでもない、等身大のスケーターがそこにありました。
ジャッジが期待している表現力を持つ樋口選手ですが、それでも代表まであと一歩届かなかったと言われる理由としてあげられているのが「メンタル面と安定感」です。今大会でも、フリーでひとつ転倒があったのですが、そこについては、以下にショート・フリーの感想を含めて書いていきたいと思います。
不器用なだけ
私は樋口選手を不器用な選手だな、と感じています。ケガや構成面での苦労などを何かと「メンタルが問題だ!」と誤解されることが多い選手。確かに真面目な選手だけに、大舞台では少し緊張屋さんなところはありますが、今季は比較的安定していた中でも、たった一度のミスで「必ずミスる」というレッテルをはられている少し気の毒な空気があります。
例えばフリーのサルコウジャンプは全日本でミスがあったため「苦手なジャンプ」「ミスるジャンプ」と言われがちですが、あれは今までと踏み切りの仕方を変えたから起こってしまった現象で、メンタルはあまり関係ないというか、どちらかというとミスの理由がはっきりしている技術的なことなんですよね。おそらく演技中はジャンプの踏切りの際のタイミング的な面で難しさがあると思うんです。それもあってか、今大会ではサルコウを跳ぶ順番を冒頭に変えて修正してきました(GOE1.40)!以前はアクセルを置いていた部分ですが、あそこは元々ジャンプまでに、たっぷりタイミングをとれるようになっていたので、そこにサルコウを持っていったのは良い作戦ではないかと思います!こんな風に工夫しながら現在も頑張っている樋口選手の努力。私は多くの方に知ってほしいです。
やや渋めな点数
ショートは完璧な演技!・・にも関わらず、PCSがかなり辛辣というか・・30点台出すのさえ渋っていた感炸裂でしたが、樋口選手なら「大会によってジャッジの傾向は違うから」と落ち込まずにいてくれることを願います。今更7点台のオンパレードはちょっとね~・・(世界選手権前にテンション下がる採点は勘弁してくれよん)と、思ったらフリーは突然8点台~9点台に戻り(ひとりだけまだ7点台)一安心な結果に。何かよく分かりませんが、転倒あり、渋め採点でも一応200点台に乗ったので、評価されているということにします!
ちなみにフリーのGOE(3S以外)
134.69 TES 69.48 PCS 66.21
3Lz+3T 1.23
CCoSp4 1.00
ChSq1 1.75
2A 1.00
3Lz+3T x -2.10
3Lo x 1.05
2A+2T+2Lo x 0.50
3F e x -0.53
FCSp4 0.50
StSq4 1.58
LSp4 0.75
赤はGOE+、青は-です。フリップでeをとられたのは痛かったなぁと思うのですが、ここについては以前別記事で書いたので省略します↓
goldenretrievers.hatenablog.com
それ以外では良い感じの評価ではないでしょうか。コレオシークエンスのGOE1.75点やステップの1.58点は五輪組と比較しても高い加点です。できればスピンでもっと稼げると最強なんですが、来季は何かいい方法はないかなというところ。転倒は思わぬミスでしたが、まぁここでピークを持っていっても仕方ないので、現時点ではそんな問題ではないかな?ただただエッジエラーだけが怖い・・。
順序がめちゃくちゃですが、ショートの方は69.25点(TES38.35 PCS30.90)でフリップもエラーなしで加点つき!しかし、ステップがレベル3になってしまいました。そうなんです。フリップはノーマークだったり、!だったり、eだったりと調子によってバラバラ・・。気まぐれ屋さんです。それでも重度なわけではないので、現在の女子シングル鬼の戦力図を見る限り、跳べる限りは修正しつつ跳んでいく方が今後にとってもベターな気がします。うん、頑張ってほしい。ステップの方はフリーでレベル4をとり、加点も高くつきました!
北京へと進んでいる
と、言うように、樋口選手はミスを最小限に抑え、見事1位で大会を終えました。衣裳もショート・フリー共に新しくなっていて、構成の変更もそうですが、今でも尚、最後まで諦めずに、このふたつのプログラムを少しでも成長させようと努力している姿が健気で応援したくなりました。(個人的にショートは前のオレンジ色が誰とも被っていないカラーで好き)
樋口選手は五輪に行くことは出来ませんでしたが、それでも点数や順位的には、まだまだ世界のトップ6の中に位置しているということが、五輪やこの大会で確認できました。次は世界選手権。既に五輪メダリストたちが出場を口にしており、厳しい戦いが予想され、五輪でミスした選手たちもここでは調子を上げてくるかもしれません。五輪で評価を得て自信を持った選手と、表彰台のチャンスを逃したからこそ奮起してくる選手。緊張や疲労からコストナー選手やソツコワ選手が調子を戻せば、日本勢にとってはより難しい展開になります。とても難しい枠争いが待っている中で、試さるように派遣される樋口選手。どうか報われてほしいし、フィギュアスケートをファンとしてサポートする側もこの現状を理解して考えてあげてほしいです。
樋口新葉は諦めていないどころか、必死に前へと進んでいます。
五輪に落選した選手には、私たちの想像以上に辛い道のり(心境)があるはずです。
それは、もちろん樋口選手だけでなく、三原選手にも、本郷選手にも、本田選手にも・・。
このトンネルは北京まで続くでしょう。本来なら五輪に落選し、世界選手権に出場するというまでのモチベーションを短期間で固めるのさえ、とても残酷な課題だと思います。
それでも、笑顔で頑張っている。後ろを振り返らずにいる。
どうか、そんな樋口選手が世界選手権で今季一番の力を発揮できますように。
祈っています。
おわりに
以上でチャレンジカップの感想は終わりになります。今大会では、樋口選手の他に本郷選手や本田選手も出場したわけですが、個人的に本田選手の様子がかなり気になってしまいましたね。本田選手も樋口選手同様に、まだ癒えていない傷こそあるとは思いますが、今季のはじめから不安視していたジャンプの不調が悪化しているように見えました。さすがに身長が急激に伸びたのも影響している気がしますが、この闇の中をいかにして乗り越えるかは、本田選手にしか出来ません。やはりこのまま埋もれてしまってはもったいない選手、何としてでも返り咲いてほしいです。
また、三原選手についてですが、彼女も3月16日にルクセンブルクで開催されるクープドプランタンに坂本選手と白岩選手と共に出場します。(坂本選手のスタミナ元気すぎ!)三原選手に関しては、同門の坂本選手の注目とパワーに引っ張られて、(ややセット売りになっている)良い風を受けているように見えるので、たくさん吸収して力にしていってほしいですね。(それでも三原選手は今後、坂本選手との戦いが大変になってくると思う。マスコミはそこら辺の距離感には慎重に取材してほしい)
まとめると、どの選手にも自信を持って挑んで!!!と、エールを送りたい!!
周りの声やリアクションなんて気にしなくていい!!
自分を貫いていくんだ!!!
ファンはずっと頑張っているその姿を見ているから、堂々と滑ってきてください。
きっと、その努力は多くの人に伝わるはず。
頑張れ。
おわり