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マイホームを奪わないで~モスクワ経済危機の冬~【ドキュメンタリーWAVE】


NHK BS1にて2017.1.15に放送された「ドキュメンタリーWAVE マイホームを奪わないで ~モスクワ 経済危機の冬~」のまとめと感想です。

 

 


経済危機が続くモスクワの冬、マンションが並ぶ住宅街でトラブルが起きています。それは住民と銀行側によるものです。

 


現在ロシアでは住宅ローンが払えなくなり、家の立ち退きを迫られている人で溢れています。

 


危機に直面しているのは、ドル建てでローンを借りた人達。背景にあるのは原油安等による通貨ルーブルの急落です。2年半の間、一時期ドルに対して半分以上も下落しました。それによりロシアでは貧困層が1年間で300万人も増加したのです。

 


家も年金も差し押さえられた人、ホームレスになるかもしれないと不安を抱える人、「家を奪わないで!」と訴える人。

 


そんなモスクワでマイホームを失う危機に直面した人たちを見つめました。

 


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冬は氷点下20℃以下になるモスクワ。大統領府近くのクレムリンの前では"ローンに気をつけろ" "マイホームが奪われる"と書かれたプラカードを掲げ、政府に支援を求める人々が朝~夕方まで集まっています。

 

 

その中の1人、ナタリヤ・タランさん(38)に話を聞いてみました。タランさんは10年前に借りた住宅ローンが2年前から払えなくなり、このままでは差し押さえされてしまうと訴えています。

 


「当時540万ルーブル借り、すでにそれ以上の額を払いましたが、さらに倍以上払わなければなりません。住む場所が無くなります。」

 

タランさんは現在、集合住宅に91歳の祖母を含めた5人家族と住んでいます。毎月2100ドルを20年で返済予定の契約でした。


返済額は為替のレートによって左右され、ローンを払い始めた2007年は経済も好調、まさにルーブル高に走り始めていた時でした。


異変が起きたのは2014年。毎月約5万ルーブル支払っていた額が突然10万ルーブルに。翌年2月には13万ルーブルに増えました。この際、銀行からリスクの説明は全くありませんでした。

 

2014年3月、ウクライナ情勢によるロシアに対する欧米の経済体裁、それに続く原油安。ロシア経済の下落は止まりませんでした。


タランさん家は、2015年4月にローンの支払いがストップ。返済期間を定年までの8年間に延ばすかわりに月々の支払いの減額を求めましたが、銀行には断られたのです。今ではマンションを売ってもローンの返済ができない程にまでなってしまいました。先が見えない生活です…。

 

 ロシアで本格的な住宅政策が行われたのは2006年~。マイホームを取得しやすくするため国家プロジェクトとして住宅建設と住宅ローンが進められ、外貨建ての住宅ローンの普及が始まったのもその頃になります。当時ロシアの経済がそれほど好調だったためです。

 

 

  もう1人、立ち退きを迫られている人に話を聞いてみました。ナタリヤ・ヴォルコヴァさん(38)です。建設会社を営むご主人と、大学生の娘さん2人と暮らしています。


ヴォルコヴァさん家も、2007年に20年ローンで2300万の中古マンションを購入。毎月2147ドルの支払いで、支払えなかった場合は立ち退き命令を出すという契約でした。


しかし支払いができなくなってから2年経った現在、銀行側が勝手に家の修理を始め、"ここはもうあなた方の家ではない"とドアの鍵をかえられてしまったのです。それからというもの家にはいつ知らない人が入ってくるかわからない状態になっています。

 

 

一方、モスクワ南部では外貨建てローン債務者による運動が行われていました。この日はヴォルコヴァさんの支援のため、銀行との様々な交渉を一緒にしようと多くの人が集まりました。


「まだ裁判所が立ち退きの決定を出していないうちに知らない人間が出入りしてるこの状況を訴える!」


銀行には立ち退き命令を出す権利はありますが、裁判所の決定がないと事実上の強制はできません。それなのに自宅の鍵までかえてしまうのは違法だという意見です。


銀行幹部との話し合いをすること2時間。その結果は

 

・裁判所が決定を出すまでは退去しなくて良い
・他人を入居させない
・鍵をどうにかする

 

という、とても前向きなものでした。

 

しかし、その話し合いから2時間後に再び銀行から連絡がきます。「すぐに修理工事を始めたい。」と。先ほどと話が違うのです。「銀行には立ち退かせる権利がある。今日出て行け。そうでなければ明日、明後日に出て行け。」と繰り返し脅迫されました。


恐怖を感じたヴォルコヴァさんは債務者仲間に連絡をし、自宅まで来てもらいました。その後、また誰かが家に入って来ないように対策として新しい鍵を買いに行くことになりました。


この日の夜、銀行の男が地元のテレビ局を引き連れ、やって来ました。「今日ヴォルコヴァさんと会う約束をしている」と取材を受けています。実はこうした問題はメディアも注目しているのです。記者も次のように答えてくれました。


「債務を抱える家族の問題は深刻です。多くの家族は守られていません。今のロシアにとって重要な社会問題です。」

 

 

では、ロシア政府の対策はどうなのでしょう。2015年4月、債務者にローン返済を補助する法案が可決されました。しかし、その対象は低所得者・現役軍人・障害者のみとなっています。それ以外の債務者に対しての法案は今のところ存在していないのが現状です。

 

 

 次は裁判ですでに立ち退きを決定された人に話を聞いてみました。現在年金生活中のナジェージュダ・ベデルニコフさん(57)です。


マンション購入は2007年、銀行から年齢が高く、収入が低いため外貨建てローンをすすめられました。当時は経済が良好だったため安心して契約してしまいました。


ところが今では債務残金489万ルーブルの支払いを求められ、年金の半分も差し押さえに。3、4ヶ月後には強制退去させられるという現状です。


ベデルニコフさんのようにホームレスにならなければいけない人の数は5千人いると言われています。

 


「銀行にも責任があるはずです。常識と思いやりがあればホームレスにさせないはずです。」 町の声より

 

 

タランさんの話に戻ります。彼女は今、ロシア連邦議会受付相談所に来ています。外貨建てローンに関心を持つウラジミール・ワシリエフ議員へ陳情書を出すためです。


タランさんの他にも200人が押し掛ける事態になる程この問題は深刻でした。結局この日、議員は不在でしたが交渉の末、後日代表10人が会えることになりました。


3日後、ワシリエフ議員と代表10人による協議が行われました。会えるのは10人にも関わらず、この日も何百人もの債務者が集まりました。

 


1時間後、債務者代表が結果を報告しました。内容は…


【至急法制化してほしいこと2点を伝えた】

 

その①裁判所が認定する立ち退きの取り消し
その②まだ未解決のものも含めた債務の健全化。
 
【結果】
議員の反応は鈍く、
①法制化に至るまでのコストが確保できない
②慌てると失敗する

 

を理由に断られました。


期待外れの結果に債務者たちは愕然とします。

 

 

 そんな中、ヴォルコヴァさん家はどうなったのでしょう。午後になるとまた銀行の人が訪ねて来ました。鍵を開けず抵抗したら、ドリルでドアをあっさり破壊されました。


「家の修理を求める。お前らはもうこの家の所有者ではない!」


その様子を見ていたヴォルコヴァさんの支援仲間が警察を呼びます。警察が到着すると事態は悪化し、今度は銀行側が消防隊を呼ぶ事態に。


銀行の言い分「この家の所有者は銀行だ。自分の所有物で勝手にガスが使われている!」

ヴォルコヴァさん「裁判所の決定が出ていないのに家に入ってくるのは違法だ」

 


この日、銀行は部屋に入ることができませんでした。


煮え切らない銀行側は、警察に所有権があるのに部屋に入ることができなかったという申告書を提出し、去って行きました。


ですが法的には裁判所の通知がない限り、銀行は勝手なことをできないのです。タランさんへの通知は今月下旬までわかりません。

 

 

後日タランさんは裁判所へ返済期間の延長と減額を求めに行きます。結果、1週間後に再度それについて協議をしてくれることと、少なくとも手続き上の権利を認めてくれました。わずかに前進できたのではないでしょうか。

 

 


今日もクレムリンの前では債務者が立ち続けます。マイホームに夢を託しながらグローバル経済に翻弄される人々。それぞれが厳しい冬と立ち向かっています。

 

 


感想

以前留学先で会ったロシア人が「ロシアでは家族が車で暮らしている」と言っていたのを思い出して、この番組を見てみました。

 

ロシアが経済体裁を受けているのは知っていますが、別の番組で悪いことばかりではないと紹介していたため、思ったより悪くないんじゃない?と受け止めていました。

 

が、とんでもないくらい深刻でした。極寒の中お年寄りがホームレスになる国ですもんね。日本も…私もおばあさんになったら年金生活できずにホームレスになるかもしれない…と思うと他人事ではないし恐怖以外の何事でもない。

 

何より政府が投げやりなことが一番恐ろしいです。いくらロシア人でも住む場所がなければ耐えられないですよ。何か特別な才能があってそれが開花して国から生活を保障して貰えるような人物でない限り無理です。

 

番組の中で債務者たちの「自分の国が敵になってしまった。これほど心細いものはない。」という悲しい言葉が胸に刺さります。

 

いつも惑わされるのは国民です。今や世界は信用や安定を失いつつあるのでしょう。そんな中で、どう生き残っていくのかが残念ながらこの世代を生きる人間の定めなのでしょう。

 

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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